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気管支喘息について

私が医師になったばかりのころは、「小児喘息」という概念があり、小児の喘息は大きくなると治癒すると教わりました。しかし、医学の進歩により大きく概念が変わり、治療法も変わってきています。

喘息の定義

慢性の炎症によって起こる病変です。
種々の誘因(寒冷刺激、受動喫煙、動物の体毛など)による気道過敏(収縮性)により引き起こされる咳嗽、呼吸困難(呼気性呼吸困難・・・空気を排出しにくくなる)の状態をさします。

平たくいいますと、いつも気管支が「ゼコゼコ」と痰が絡んだ状態で、何かのきっかけで急に呼吸困難を引き起こす病気です。

教科書的なことを書いても、あまり面白くないですし、私が今まで経験してきたことや治療の工夫をしてきたことについて書いてみます。

喘息の治療変遷

初めて小児科医になり喘息の治療に携わったのは、九州の小倉記念病院でした。
私の恩師である、古庄先生の下でいろいろな大事なことを教わりました。

救急車で搬送されてきて、ほとんど呼吸不可能な状態の患者さんなど、重症の患者さんがいっぱいでした。すぐに送管して(肺の中に直接チューブを入れて)人工呼吸開始したりしていました。主治医になると1週間くらい病院にへばりついていました。

両手両足に点滴して、イソプレテレノールという劇薬で心臓の心拍を200-210位まで上昇させて治療したりしていました。心拍数が200を超えた瞬間今までのたうちまわって苦しんでいた患者さんがむっくと起き上がってしゃべり始めます。びっくりしました。ただ怖いことに、点滴が漏れて体に薬が入らなくなるとみるみる心臓が止まります。そのために点滴を両手両足に入れておくのです。年末に重症の喘息患者さんが入院しイソプロテレノール治療を開始すると、年末年始にかけて北九州中のイソプロテレノールを使い切ってしまったこともありました。

また、そのころは外来でネオフィリン(気管支を広げるお薬)の注射をガンガン使っていました。
しかし、乳幼児には効果ありませんでした。

大学での治療経験

 その後大学の付属病院に帰り、研修していたころは、ぜんそく患者さんに安易に吸入したり薬を投与したりするな!といつも言われていました。子供たちの体を鍛えて、鍛錬させて乗り切らせないとだめだ!と繰り返し言われました。

 忘れもしません、ある夜当直していますと、病棟の主任看護師さんが、私服で「先生、先生!」と物陰から呼んでこられました。「えっ?どうしたの?」って聞きますと、「先生、ごめん、うちの子供が喘息発作おこしていて、吸入をさせてあげたいのですけどいいですか?」って言うので、「本人を診察させてください。」と返事しました。子供さんは、肩で呼吸していて、典型的な中発作でした。このままでは、今晩眠れないだろうと思い、処置室でこっそり吸入治療しました。あとで聞きましたら、「主任たるものが、自分の子供の喘息に吸入させるのはけしからん!」と怒られるから、私にこっそり頼んだそうです。そんな時代でした。

1980−1990年頃の喘息治療

その当時、治療の基本は、テオフィリン(テオドール、テオロング等)の薬が中心でした。一番の治療の指針になるNew England Journal of Medicine(NEJM)でも喘息の治療には、テオフィリンを投与し血中濃度を15−20μg/mlで維持するように書いてありました。今から考えれば恐ろしい濃度です。

治療薬:テオフィリン、ネオフィリンについて

 県立尼崎病院に勤めていたころも、いろいろな症例に出会いました。
ネオフィリン点滴で治療していた患者さんが急に意識消失して呼吸停止し、けいれんを起こしたこともありました。
 そのころから、ネオフィリン、テオフィリンとけいれんの関係が論文に散見されるようになりました。その痙攣した患者さんを経験してから、ネオフィリン、テオフィリンの使用を極力避けるようになりました。
NEJMでも、テオフィリンの投与量を低くするように書いてありました。

吸入器を使った自宅での治療  

 アレルギー外来を担当するようになってから、夜中あまりにも頻回に呼び出されるので、吸入器の利用を自宅でできないかなぁと考え始めました。きちんと薬の管理できるお母さんを数人選んで吸入器を購入してもらい、自宅でインタール吸入を始めました。
 発作時にはインタール吸入+ベネトリン吸入を行ってもらうようにしたところ、劇的に症状改善し点滴する回数、入院する回数も減りましたので、一気に外来患者さんに吸入器をひろめていきました。
 ちょうど1984年ごろです。まだ学会でも自宅吸入療法は発表されていませんでした。こんな治療法は発表するほどでもないしと思っていたら、あとから学会でいろいろと発表されていて、こんな事でも発表のネタになるのかと思ったのを覚えています。

 ただ、この自宅吸入療法には一つだけ難点がありました。発作が起きた時に吸入するベネトリンのお薬の管理の問題です。ベネトリンの吸入液はひと瓶に30ml入っています。もしお家での管理が不十分でその辺に置いてあったりしたら大ごとになります。
 小さな幼児が見つけてベネトリンの液を一気に飲まれたりすると大変です。吸入ですら0.1-2mlしか使わないのに30ml内服されると、300倍量を投与したことになります。ですから保護者の方にはくれぐれも子供さんの手に届かないところで保管してもらうように口酸っぱく指導しました。そのおかげで1例もトラブルなく治療を行えていますが、よその施設ではベネトリンやメプチンのような気管支拡張剤の大量誤飲で透析を受けた症例などあったようです。
最近、メプチン吸入液は1回ごとの容器に変更されさらに安全性を増しています。

新しい気管支喘息治療薬の登場

  吸入療法でかなり重症患者は減りましたが、さらにいくつかの新薬のおかげでもっと管理が楽になりました。
 抗アレルギー剤とエリスロマイシンの新しい使い方でした。

 抗アレルギー剤は、ザジテンが発売されてから激変し、さらにロイコトリエン拮抗剤のオノンが発売されてから一段とコントロールしやすくなりました。
  またこのころからアメリカの気管支喘息のコントロールが変わりました。テオフィリン、ネオフィリンは使うなとなったのです。また成人に対してと同じように子供も吸入ステロイドを使用するようにと発表されていました。
  北野病院に勤めているころ吸入ステロイド製剤の意義について医師会の先生方に講演したことを覚えています。また1996年ごろから内科領域、耳鼻科領域で少量のエリスロマイシン投与が、びまん性汎再気管支炎、滲出性中耳炎や慢性副鼻腔炎に効果があるという論文がいろいろ発表されてきました。自分の外来の患者さんもよく観察したら、エリスロマイシンやクラリスロマイシンの投与を受けている患者さんの方が発作減少しているのに気づき、喘息治療の基本使用製剤のなかにこれらの抗生物質を加えるようになりました。

乳幼児の気管支喘息治療

話が前後しますが、私が医者になったころは乳幼児の喘息をコントロールするすべがありませんでした。しかし、エリスロマイシン+吸入療法+気管支拡張剤+抗アレルギー剤を組み合わせるとものの見事にコントロール可能となりました。

実際の症例を一例お話します。

3歳の男の子で主訴は気管支喘息発作。私が独立する3年前にアルバイトで働いていた病院に来られました。年間12回以上入院し、呼吸器をつけたこともあるとのことです。
治療は、某県立病院でされていて、皮膚に貼る気管支拡張剤、テオドール内服、インタール+メプチン吸入、ステロイド吸入で治療されていました。
そこで、上の治療方法にのっとって、3剤薬を追加したとたん発作は小発作となり、点滴は年間1−2回となり、入院は6年間有りません。

喘息発作を悪化させる治療法

今まで、私の外来には軽症な患者しか来てないのだと思っていましたが、間違いでした。
喘息発作を直すコツは簡単ですが、逆に悪化させるのも簡単です。

「薬に頼らないで体力をつけて乗り切ろう。」とか、「病状が治まったらすぐに薬をやめましょう。」というのが悪化させ、入院する回数が増える治療法です。
症状に合わせて徐々に薬を増やすやり方もあまりお勧めできません。

正しい喘息発作の治療法とステロイド吸入療法について

発作を抑えるときは、5−6種類の薬と吸入で抑え込み数ヶ月は薬を継続して発作ゼロを目指すのです。そのあと徐々に薬を減らすやり方が正しいと思います。
治療開始後しばらくのあいだは、薬を続けて飲まなければなりませんが、1−2年たったら、急に発作回数減少し、薬の使用量も激減します。
ここ2−3年喘息発作で点滴、入院した患者さんはいません。
もうひとつこの治療のいい点は、乳幼児もコントロール可能なことです。
同じ考え方で治療すれば、コントロールできます。

数年前、そうですね、2000年頃から欧米ではステロイド吸入で治療するパターンが多くなりました。しかし2年前のNEJMの論文(NEJM 2006,354;1985-97 および NEJM 2006,354;1998-2005)でステロイドの吸入は数年後の喘息発作の回数を減少しないという論文が出てきて、現在見なおされています。ステロイドの吸入は確かに効きますが、最初に使うお薬ではないと思います。小児科領域で長期間多量に使うと身長の伸びを阻害します。
数種類の内服薬を使ってもコントロールできない時にのみ使用すべきだと思います。できれば期間限定で。

成人の喘息発作

内科領域の喘息患者さんも診察していますが、成人はなかなか治りません。
特に御高齢の方は薬に対する反応が悪く難しいです。

小児科領域での喘息治療はワンパターンで治ります。
小児のうちに喘息はコントロールしてしまいましょう。

その他、生活上の注意点

・ 犬、猫などのペットは飼わないようにしましょう。(室内で飼育するのは絶対避けてください)
・ タバコは厳禁です。
・ 煙に気をつけましょう。(花火、線香、キャンプファイヤーなど)
・ 運動は薬を飲みながら可能な限りチャレンジしてみてください。
・ 発作の起きる危険な時期を把握しておいてください。(たとえば春の連休のころや秋の運動会シーズンなど)

小児科領域の喘息は、もう完全にコントロール可能です。
最後に残るのは・・・アレルギー性鼻炎です。これは治りませんねぇ。