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てんかんについて

「けいれん」と「てんかん」

てんかんとは、一言で言えば、「脳細胞が勝手に興奮すること」、です。

昔は、もののけがつくとか色々言われ、間違った認識で

差別や迫害を受けたりしました。現代医学で説明すると、

脳の電気刺激の結果起きる出来事です。ただ、制御された

電気刺激でなくて、制御されない無秩序な電気刺激による

脳細胞の興奮状態なのです。

よく勘違いされる言葉に、「けいれん」という言葉があります。

けいれんは、体ががくがく震えたり、突っ張って硬直する状態です。

色々な原因で起こります。

例えば、水中毒、血液中の電解質の異常(カルシウム、

マグネシウムなど)、低血糖、ホルモン異常、脳出血、脳梗塞、

脳髄膜炎、などなどです。その原因のひとつにてんかんが含まれます。

また、けいれんをきたす疾患で混同されやすいのは、熱性けいれんです。

熱性けいれんは、熱の出たときだけけいれんを起こす状態です。

てんかんは、熱が出なくてもけいれんをおこします。

熱性けいれんについては、別のところに書いていますので参考にしてください。

 

これから、てんかんについて書きますが、何せ多種多様ですので

詳しく書くと本ができちゃいます。かなり端折って書いていますので

その辺のところをご理解ください。

1. てんかんとは?

WHOによるてんかんの定義

てんかんとは、さまざまな原因により起こる慢性の脳の病気で、大脳の神経細胞の過剰な活動に由来する反復性の発作(てんかん発作)を主徴とし、それに変化に富んだ臨床および検査の異常を伴うもの。

1) 神経細胞の過剰な活動

これに一致した脳波の変化を認めます。
簡単に言うと頭の細胞が勝手に興奮することです。

2) 反復性

一回の発作では、決しててんかんと診断されません。
発作が繰り返し起こることが重要な条件です。
 一回きりの発作を持つ人が、5年以内にもう一度発作を起こす危険性は33%ですが、2回目の発作を起こした人が次に発作を起こす危険性は73%と上昇します。
脳に器質的な異常が無ければ、一回きりの発作では治療の必要も無く、行動の制限も必要ありません。

3) 慢 性

例えば、脳挫傷などの頭部外傷のすぐ後にけいれん発作が見られても「てんかん」とは言えません。

4) 発 作

通常は短時間(秒あるいは分単位)の症状のことであり、けいれんを伴うことも、伴わないこともあります。
脳波でてんかん性異常波が認められても、発作が無ければ「てんかん」ではありません。
逆に脳波に異常が認められないからといって、てんかんは否定できません。

2. てんかんの原因

大きく分けると、脳に傷などの異常がある器質性の原因と、
そうでない機能的な原因に分けられます。

1) 器質性の原因:症候性てんかんと呼ばれるもの

例:分娩時の頭部外傷、先天性代謝異常、先天性奇形、乳幼児期の虚血、感染症、変性疾患、脳腫瘍、脳血管障害、交通事故などの頭部外傷など


2) 機能的な原因:特発性てんかんと呼ばれるもの

遺伝子変異が見られるものもあります。

3. てんかんの発作症状

1) 診断手順

a それは「発作」であるか?
b 「発作」であるならば「てんかん発作」であるか?
c どんな「発作」症状であるか?

2) 発作症状の観察の留意点

a 発作の始まりがどうであったかを、よく観察することが大切
b 意識が失われるかどうか
c 運動症状の把握:頭部の回旋やけいれんの有無
d その他の発作症状:行動異常や精神症状など
e 持続時間

3) 発作の起きた時間と状況

a 何時ころか、(早朝、入眠時、覚醒時)
b 何をしていたか、(テレビ、映画、ゲーム等)

4) 誘因はないか?

例えば、発熱、過労、精神的ストレス、睡眠不足、食事時間、
酒酔い(二日酔い)、スポーツ、入浴、ゲーム、映画、音楽など

5) 発作の様子はどうか?

全身性か部分発作か、意識消失を伴っているか、けいれん中眼球はどちらを向いているかなど

6) 発作時の処置について

  • あわてないで、けいれんの開始時間を確認する

  • まず安全な場所に移すこと(椅子なら床に移動させる)

  • 口の中に異物があれば顔を横にすること、決して口の中に指や割りばしなどを入れない

  • かかりつけの医者からけいれん時の座薬があればすぐに使用する

  • 10分以上けいれんが続けば救急を受診する

4. 発作型の決定とてんかん診断

1) 発作型の決定

てんかんの発作症状から発作型を診断し、
脳波やMRIなどを参考にしててんかん発作の分類を行います。

2) てんかん発作の国際分類

1. 部分発作

1) 単純部分発作:意識の保たれる発作

a 運動症状を示すもの(回転、姿勢、運動、など)
b 感覚症状を示すもの(視覚、聴覚、味覚、嗅覚、など)
c 自律神経症状(吐き気、発汗、立毛、顔面蒼白、など)
d 精神症状(既視体験、恐怖、巨視、音楽、情景、など)

2) 複雑部分発作:意識の無くなる発作

a 単純部分発作から移行する
b 初めから意識が無くなる

3) 二次性全般化:1) や2) から全身のけいれん発作に移行するもの

2. 全般発作

1) 欠神発作:ボーとして短時間意識を失うもの
2) ミオクロニー発作:身体の一部分ないしは全身の筋肉がピクンとするもの
3) 間代発作:カクカクする発作
4) 強直発作:突っ張る発作
5) 強直間代発作:突っ張ってからカクカクする発作
6) 脱力発作:筋肉の力が抜ける発作

小児科領域のてんかんは、上記に書いたもの以外に年齢により色々なタイプのてんかんがあります。たとえば代表的なものは、

年齢依存性のてんかん

1)新生児期のてんかん (てんかん脳症、ウエスト症候群等)

2)乳児期のてんかん (良性乳児痙攣、点頭てんかん等)

3)幼児〜学童期のてんかん (レノックス症候群等)

4)思春期のてんかん (中心・側頭部に棘波を持つ良性小児てんかん等)

5)成人のてんかん

5. 診断に必要な検査

1) 脳 波

頭皮上のいくつかの点(前頭部、側頭部など)に左右対称に皿電極を置いて測定します。
てんかんの診断には不可欠の検査です。
入眠寸前のうとうと状態の脳波を記録することがとても重要です。

小児の脳波に比べれば大人の脳波を判読するのは比較的簡単です。
なぜなら年齢による影響が少ないからです。
小児の脳波は年齢によって非常に大きく変化します。
生後すぐの新生児の脳波などは、日に日に変化します。
思春期を過ぎるあたり、個人差がありますが大体15−17歳くらいで成人とほぼ同じ脳波所見となります。
慣れてくると(そうですね、2000人―3000人分くらいの脳波判読経験)
脳波を見て大体の年齢も判定できるようになります。
ですから小児の脳波判読が難しいといわれ、かなりの経験がいると言われるゆえんです。

2)画像診断:MRI、CT、SPECTなど 

a MRIとCT

撮影方法は異なりますが、脳の構造の変化を調べる検査です。
脳血管障害、腫瘍、形成異常、外傷など、てんかんの原因検索に有用です。
MRIの方が、CTより精度の高い情報が得られますが、CTの方が検査時間は短いです

b SPECT

静脈内に少量の放射性同位元素を注射し、脳の活動が活発なところ(てんかん発作部位)に集まる現象を調べる検査です。脳の局所の血流量に依存します。てんかんの原因部位(焦点)は、発作の無い時には集積が低く、発作の最中には集積が高くなります(すなわち、血流が多い状態に見えます)。

3)血液検査

けいれんを訴えてこられる方に対しては、必ず血液検査が必要です。
他の病気でもけいれんを起こすことが多々あります。(例:低血糖発作、低カルシウム血症など)
また、薬を内服する際にも、副作用のチェックの意味もあり血液検査が必要です。

6. 治療

1) 内服治療

原則として、1剤でけいれんが消失すれば一番望ましいです。ただ、すべての発作が1剤でコントロールできるわけではありません。特に難治性のてんかんの場合、2〜3剤併用になることも少なくありません。2剤以上併用する場合は、安易に薬を増やすのではなく、効いているかどうか、必ずチェックしながら投与することが必要です。無意味な薬剤は、逆に発作を悪化させることもしばしばです。

以前経験した症例をお話します。

【症例】

11歳の男の子です。他のてんかんセンターでフォローされていて、内服薬は13種類にもなっていました。内服薬が多くて、副作用のためにふらふらの状態で、うとうとしているか、けいれんしているかの状態でした。コントロール不良で、寝たきりの状態です。夜もけいれん発作で睡眠がとれず悪化するため、3日に1回の割合で睡眠剤を注射するために入院を繰り返していました。
引っ越してこられて、私の以前勤めていた病院の外来にこられたのですが、あまりにひどいので、入院してもらい、薬の整理、つまり断薬を行いました。2ヶ月かけて徐々に減量し、3剤にまで減らしたところ、けいれん発作は、夜入眠時の数回になり、昼間は座ってトランプをする状態にまで改善しました。残りの3剤を徐々に減量してチェックしたのですが、やはり3剤の状態が一番良いと保護者の方も納得されて治療続けています。
大事なことは、その薬が本当に効いているかどうかチェックすることです。

一般的には、全般発作には、バルプロ酸が、部分発作には、カルバマゼピンかフェニトインで治療するパターンが多いです。しかし、個々の症例によって色々ですから、よく話し合って薬を決めるべきだと思います。

もうひとつ大事なことがあります。小児は成人と違って、発達・発育をします。
正常の発達・発育以外にてんかんという病気の修飾を受けた状態を考慮して判断が必要となり、さらに投与する薬剤の影響も考えながら治療をしていかなければなりません。かなり高度ななおかつ広範囲な知識を必要とされます。そこが小児神経の難しいところでもあると思います。
最近の先生方の傾向ですが、てんかんはてんかんとして考え、発達の遅れは別という指導をされる先生も多々いらっしゃいます。しかし、できる限り単一の病態で説明するように考えながら治療しないと誤診を招きますし、治療も間違います。

内服治療はいつまで続けるのかという問題ですが、各先生方、施設によって異なります。ただ一般的には、内服治療して発作が止まった場合は断薬の可能性がでてきます。発作が続いているのに断薬するのは難しいと思います。一応薬を飲んで発作が消失し、脳波所見も正常になった場合、3年から5年内服後に薬をやめる場合が多いと思います。薬を飲んで症状が消失し1年後に断薬すれば再発する確立は高いです。最低でも発作消失して3年は必要だと思います。なぜなら発作を抑制する遺伝子が誘導されるのにそれくらいの時間が必要だからです。大体ですが、てんかん発作の患者さんを診ていますと、7割くらいの方が断薬して治癒されています。

各薬の副作用については、また時間ができればアップするつもりです。

2) 外科的治療

最近では、診断技術の進歩に伴いてんかんをおこす部位がかなり正確に診断できるため外科的に異常な部位を切除する治療も始まっています。ただ歴史も浅く、かなり限られた症例のみが治療対象になると思われます。

以上一般的なことを書きましたが、そんなに単純な病気ではありません。

症状は多種多様です。重症度も色々です。

以下、少し今まで経験した症例をお話します。

【症例】

以前勤めていた病院に、生後1日目のけいれん重積(けいれんが途切れなく続く状態)となった赤ちゃんが搬送されてきました。搬送されてきてすぐ保育器に収容し、人工呼吸器につなぎましたが、どんな点滴、投薬をしても、けいれんは止まらず、最後には麻酔薬まで使ってみました。それでも、けいれんが続くので、生後2週目過ぎよりACTHという注射薬で治療しました。その薬でようやくけいれんが止まり、その後は内服薬でコントロールしています。彼は、今8歳で小学校に行っています。ただ言葉の発達は遅く、歩くのも補助が要りますが・・・生後1ヶ月の時、ご両親に生まれて1年以内に亡くなるだろうってお話したのを覚えています。

【症例】

つい先日受診された患者さんは、8歳の男の子です。
去年の春先から学校にほとんど行くことができないので相談に来られた方です。
母親が開口一番、「先生覚えていますか?以前風邪でお世話になったのですが、先生何とかしてください。この子、学校にも行けなくて・・・」と矢継ぎ早に話されました。
彼の症状は、「嘔吐」です。急に吐き出して脱水になり、大阪の総合病院に数回入院し、「周期性嘔吐症」と言われていたそうです。春先4月から夏休みまで登校できたのは、たった数日だそうです。その病院では、「周期性嘔吐症」なので思春期にならないと治らないといわれてお手上げ状態だったそうです。
お母さんからよくよく話を聞いてみると、あるとき突然に、そう、電気のスイッチが入ったように突然に吐き出して、まったく口も利けなくなり、ぐったりしてくるようです。また入院して点滴していても脱水を改善しても吐き続けていたそうです。そんな症状、「周期性嘔吐症」では考えられません。また、症状が改善する時も、突然良くなるのだそうです。そこで、あやしいなーと思い脳波検査をすると、棘波が出ており診断がつきました。カルバマゼピンという薬を投与してから、発作はなくなり、今は元気に学校に通っています。彼のてんかん発作は嘔吐だったのです。後日母親から詳しく話をたずねると、「以前、そう言われれば思い当たることがありました。」とおっしゃられました。「千と千尋の神隠し」を映画館に見に行ったとき、なぜか映画館の中に入るのを嫌がったそうです。それでも何とか入場したら、真っ暗になって音楽が始まり映画がスタートしたら急に頭を痛がって興奮状態になったそうです。ロビーに出て30分位したら落ち着いてきたそうですがそのときは少し意識も無かったようで、たぶん発作だったのかもしれないとおっしゃいました。

ほかにも、色々な症例があります。

【症例】

10歳の男子の患者さんは、たまたま風邪で受診されました。診察している最中に、急に動きがとまり一点を凝視しました。時間にして2秒間くらいです。お母さんに、「今みたいな状態は時々あるのですか?」って聞きますと、「そうなんです。先生、この子時々ふっとあっちの世界に飛んでいってるんです。」って笑って話されました。本人に尋ねるとその瞬間のことはわからないって言ってくれました。すぐに脳波を調べると、全般発作の棘徐波(3Hz)があり、欠神発作でした。お薬投与で元気にされています。

医院を開業してからも何人か新しい患者さんを治療しています。

【症例】

1歳6ヶ月の男の子で、とてもやんちゃな方です。いつも風邪で来られていたのですが、熱性けいれんを起こしました。初回の熱性けいれんの時はびっくりされて駆け込んでこられたのですが、ダイアップ坐薬で落ち着いていました。まぁ、普通の熱性けいれんだろうなぁーって思っていたのですが、2ヵ月後に再び熱性けいれんを起こしました。しかし、けいれんを起こす3時間前にお母さんはちゃんと坐薬を予防的に使っていたのにけいれんしました。けいれん発作の時間も長く、念のために脳波を調べると棘波を認め、バルプロ酸というお薬を処方し、それ以降けいれんがありません。

【症例】

つい数日前に受診された患者さんは、10歳の女の子で「先生、授業中に黒板が前へ行ったり後ろへ行ったりして見える。」ってこられました。彼女の脳波も棘波が認められ、診断がつきましたが、ちょっと変わった名前の病気で「不思議の国のアリス症候群」でした。投薬で症状は改善しています。

【症例】

また、てんかんと診断されて違っていた症例もあります。20歳過ぎの女性の方で、両手が勝手に突っ張ってけいれんするとおっしゃってこられました。「ほかの病院で部分てんかんと診断されて薬を飲んでいますがよくならない。」っと言ってこられました。脳波は正常でした。血液検査で、カルシウムの濃度が正常でしたが低めだったのでチェックしたら、副甲状腺の異常で「偽性副甲状腺機能低下症」でした。薬を変えたら症状は消失しました。

小児の脳波をきちんと読める医師は非常に少ないと思います。
他の総合病院で異常なしと言われ、当院に来て診断がつき、うまく治療できた症例も少なくありません。また、私は親あるいは本人がいるところで脳波を見せて説明しますので、親御さんや本人がそのうち脳波を判読できるようになることもあります。(実際、若手の医者より脳波を判読できる方もいらっしゃいます)

とりとめもない文章で申し訳ないですが、最後に有名な方々が実はてんかんなのでご紹介いたします。

皆さんもご存知だと思いますが、ローマ帝国の覇者「シーザー」です。
エリザベステーラーが若くてきれいな頃に出ていた「クレオパトラ」という映画の中でもシーザーのてんかんのシーンが描かれていました。シーザーとクレオパトラの結婚式も確か発作のために延期になったはずです。

他にも有名なてんかんのかたがいます。フランス革命で英雄になった「ジャンヌダルク」や「ゴッホ」などです。