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低身長について(成長ホルモン分泌不全性低身長症)

背が低いのですが…

外来診察をしていますと、1週間に数人は「背が低い」ことを心配されて相談に来られます。病気でもないけど、あまりに同年代の子供と比べて背が低いので心配になって来ました、という方が多いです。
時に、18歳や20歳の患者さんが真剣に相談に来られます。
「大丈夫。そんなに心配しなくてもウチの子は後で伸びたから。」って言われて放置しておいたらもう伸びなくなってしまって。。。診察してみますと、もう骨の成長する部分が消えてしまっていて全く伸びない状態です。「残念ですが、今現在の状態ではどうすることもできません。」とお話することも少なくありません。せめて、もう2〜3年早く外来に来ていただければ何とかなったのですが…現代の医療では、骨が大人の状態になってから身長を伸ばす方法はありません。

今回子供の低身長についてお話します。

低身長の原因

  • 遺伝的な低身長(両親が低身長の場合)
  • 性ホルモンの異常(思春期早発症、思春期遅発症)
  • 染色体異常(ターナー症候群、プラダー・ウイリー症候群など)
  • ホルモン異常(甲状腺機能低下症、成長ホルモン分泌不全性低身長症など)
  • 精神的疾患(愛情遮断症候群、いじめ、長期入院などのストレスなど)
  • 骨の疾患(軟骨異栄養症)
  • その他の臓器疾患(腎疾患、心疾患、肝疾患、代謝疾患、脳腫瘍など)

以上いろいろな疾患が含まれていますが、その中でも成長ホルモン分泌不全性低身長症にスポットを当ててお話しいたします。

どういう時に受診すればいいのでしょうか?

これからお話する2つの条件のうち、どちらかが当てはまれば一度病院を受診されたほうがいいと思います。ちょっと身長が低いだけでなく病的に身長が低い可能性が高いからです。

低身長 1番目の条件

同年代児童の身長の平均値より−2SD以上低い場合です。具体的には、表1を参考にしてみてください。この表の値より低い場合は要注意です。

低身長 2番目の条件

年間の身長の伸び率(一年間で何センチ伸びたか)です。これも表2に照らし合わせてみてください。一年間の身長の伸びが、該当する年齢の伸び率より1.5SD以下の場合は例え身長が高くても要注意です。学年の一番後ろのほうに並んでいたのが、あっという間に一番前になってしまうこともあります。伸び率をチェックする場合はなるべく一年以上間隔をあけて測った身長を参考に一年間の伸び率をチェックしたほうが誤差は少ないです。

最終的な身長を決定しているもの

当たり前の話ですが、身長を決定しているのは「」です。従って骨の状態をチェックすることが大事になってきます。
本来なら頭の天辺から足の先まで全部の骨のレントゲンをチェックして身長があとどれくらい伸びるか判断するのですが、それでは全身に放射線を浴びてしまいます。
脳、眼球、甲状腺、心臓、肺、肝臓、脾臓、腎臓、小腸、大腸などなど、ほとんど全身の臓器に放射線を当てるのは考えものです。
実際に身長を決定している骨の数は、頭蓋骨、頸椎、胸椎、腰椎、骨盤、大腿骨、脛骨、踵骨などで大体30個弱です。その骨の数に匹敵するほどの骨が実は両手に存在します。手根骨です。全部で30個弱存在します。両手のレントゲンをチェックしても被曝は影響ありません。安心して骨の状態をチェックできます。

最初にお話した「大丈夫。そんなに心配しなくても家の子は後で伸びたから。」って言う言葉の医学的な裏づけは実は骨の年齢と関係するのです。

暦年齢と骨年齢

実際にオギャーと生まれてから今現在までの日にちを計算したものが暦年齢といいます。
それに対してレントゲンで骨の状態を調べて、平均的な骨の発達に従ってつけた骨の年齢を骨年齢といいます(ちゃんとアトラスがありましてそれに照らし合わせて骨の年齢をチェックするのです)。ややこしいことに、暦年齢と骨年齢が一致しないのです。

おませな子、おくてな子

学校に通っている生徒さん達を見れば気づくと思いますが、小学校5〜6年の女子の中には身長がすでに160cm近くあり、胸も大きくなって生理も始まっている方がいます。そういう子供さんの手の骨のレントゲンを調べると実際の年齢は11歳くらいなのに骨の状態を見るとすでに16〜17歳まで達している場合があります。人間の骨は骨の年齢でおよそ16歳を過ぎるともうそれ以上骨は伸びなくなります。従ってそういう子供さんは身長の伸びが全くストップしているはずかこれからはもうそんなに伸びないはずです。そういう方は、一般的に早熟なタイプになります。

逆の場合もあります。中学校一年生の男子の中には(別に女子でもいいのですが。。。)、どう見ても小学校3年生くらいにしか見えなくて、声変りも全くなく、とても幼く見える方がいらっしゃいますね。そういうお子さんの暦年齢は13歳くらいなのに、骨年齢は6歳くらいの場合なのです。そういう方は、おくてなタイプとなり、俗にいう「大丈夫。そんなに心配しなくても家の子は後で伸びたから。」に当てはまります。

ただし、そうです、ただしが付くのです。きちんと成長ホルモンが分泌されていればの場合です。成長ホルモンがちゃんと分泌していなければ、とんでもないことになります。いつまでたっても身長が伸びてこないのです。そのうちに骨年齢もどんどん進んで気がついたらもう手遅れだったって状態が困るわけです。おくてでも待っていい場合と待ってはいけない場合があるのです。その区別のポイントになるのが「成長ホルモン」なのです。

成長ホルモンってなに?

成長ホルモンは脳の中の下垂体っていう部分から分泌されます。
成長ホルモンは読んで字の如く体の成長に関係するホルモンです。最近成長以外にも、脂肪の代謝、糖の代謝にも関係する大事なホルモンだということがわかってきています。また筋肉の強化、発達にも関係しており、運動選手にとっても大事なホルモンとなっています。

女性の永遠のテーマである、若返りややせることにも関係してきます。
アメリカでは成人の肥満治療薬として使っているほどです。特に最近テレビで、「成長ホルモンで若返る」という内容の番組が放映されたそうなので、皆さんも御存知かと思います。

成長ホルモンをいっぱい出すためには?

昔から「よく遊んで、よく食べて、よく寝る子は育つ」といわれてきましたが。実はすべて、つまり運動、食事、睡眠は成長ホルモンの分泌刺激因子なのです。

病的に身長が低い人は、この成長ホルモンの分泌が少ない人たちなのです。では外来に行ってすぐにチェックしたらすぐに異常かどうかわかるのか?

いいえ、そんなに単純ではありません。なぜでしょう?実は外来に来られて血液検査をしても通常の状態の成長ホルモン(基礎値)をチェックしているだけで、 分泌能力の高い人でも低い人でもほぼ同じ値なのです。

2020年にNEJMから「Milk and Health」2020; 382:644-654の総説が出ました。
思春期の牛乳高用量摂取で最終身長が伸びるそうです。
目標として牛乳を1日3杯くらいは最低でも摂取しましょう。

低身長の検査について

最初に書いてありますように、そのほかの病気を否定するためにも、きちんとした検査が必要です。最初に受診されたら、あらかじめ問診させていただきます。それにより、両親の身長、生活環境、生活習慣、生まれた時の状態、黄疸などを聞いて検査を開始します。

まず一般的な血液検査(必要なら染色体検査も)、尿検査、手の骨のレントゲンをチェックします。また脳腫瘍が疑われる場合は、頭のMRI検査も実施します。
これで、ほとんどの疾患はチェックできます。

ただ成長ホルモン分泌不全性低身長症の場合はさらに負荷テストが必要です。
運動負荷をしたり食事負荷をして初めて分泌されるので、負荷試験を行わないと判定できません。実際には前の日就眠してから絶飲食、安静にしておき、翌日何も食べず飲まず安静の状態で薬を既定の量投与して時間を追って採血し成長ホルモンがどれくらい負荷により分泌されるか調べないと判定できません。そうやって行う検査が5項目あるのです。

インスリン負荷試験、クロニジン負荷試験、Lドーパー負荷試験、アルギニン負荷試験、グルカゴン負荷試験です。詳しい検査方法や費用などは直接メールで問い合わせてください。

当院では外来(通院)で検査可能です。時間は2-3時間かかります。

成長ホルモンの治療について

不幸にして成長ホルモンの分泌が悪い場合、治療すれば身長はのびます。
治療による副作用は、ほとんどありません。きちんと医学的にチェックしながら治療すれば問題ありません。低身長の治療で異常が見つかるよりも、実は治療する前の検査のほうで異常が見つかる場合のほうがはるかに多いのです。脳腫瘍が見つかったり、肝機能障害が見つかったり、糖尿病が見つかったり等々です。

低身長だが検査では成長ホルモンが充分出ている、そういう場合に成長ホルモンをさらに投与すれば身長が伸びるのでしょうか?残念ながらきちんとしたデータ−は存在しませんが、医学的に考えれば無意味だろうと思います。

鉢植えの木に水をいっぱいやりすぎてもあふれ出るだけです。成長ホルモンでも同じだと思います。そういう場合は後で伸びるタイプだからと考えて様子を見られたほうがいいと思います。それでも身長が伸びない場合、両親の身長を考えてください。ご両親が低いのに子供だけ急に大きくなることはあまりありません。遺伝的にも最終身長は影響されるのです。

生活環境にも影響されます。ある子供さんはいじめにあっていてその年度から急に身長の伸びが悪くなっていました。また別のお子さんはご両親が離婚する話になり、その頃より急激に身長の伸びが悪化していました。身長曲線はある意味でその子供の人生を反映しています。

いつ頃から治療すればいいのか?

成長ホルモンが足りない場合、いったい、いつ頃から治療したほうがいいか?
これは単純に考えると早ければ早いほど良いはずです。本来体に必要なホルモンが不足しているわけですから補充するほうが正しいと思います。

ただ注射でしか投与できませんからあまり小さな子供さんにほぼ毎日おうちで注射するのも考え物だと思います。一般的に検査はいつでも問題ないと思いますが、治療は個々の症例によって違います。

大体小学校入学前後位から始めることが多いです。美容的効果があるということで私も打ちたいと思われる大人の方もいらっしゃるかもしれませんが、自費の場合とても高額です。年間百万円以上はかかるでしょう。低身長の診断基準を満たしていれば低身長の治療に関しては今のところ国から補助が出ます。条件が満たされていれば患者さんの負担はほとんどありません。治療の事や費用について詳しいことはメールでお問い合わせ下さい。

食生活と運動の注意点

成長ホルモンで治療されている患者さんの中でも、食事のとり方により背の伸びが異なってきます。コーラ、ジュース、お菓子などでおなかをいっぱいにせず、野菜、魚、大豆製品、お肉、ご飯、パンなどたんぱく質、脂肪、ミネラル、ビタミン類などバランス良く摂取してください。

ただ、思春期に牛乳を積極的に摂取すると、明らかに身長は伸びるようです。
お茶やお水を飲む代わりに積極的に牛乳を摂取してください。

また運動することも身長を伸ばすにあたりとても大事なことです。最近の子供達は運動などせずにテレビゲームばっかりしていますから、夜更かしになります。
また運動しませんから眠りも浅く成長ホルモン分泌の点から言いますと最悪の条件です。

始めに述べたように「よく運動して、よく食べて、よく眠る」ことがとても大事なことです。運動をする際、必ずストレッチを意識して行ってください。
運動による故障が防げます。筋肉トレーニングは、正しいフォームで行ってください。
間違った筋トレをやりすぎると骨の伸びに影響します。

しなやかな関節(特に肩関節と股関節)と柔らかい筋肉を作るようにしましょう。最後に勉強も忘れずにしましょうね。

(表1)

低身長の目安

下記の身長以下の場合、低身長と思われます。

お子さんの身長を当てはめてみてください。(身長はセンチで表示)

年齢(歳) 3.5 4.5 5.5 6.5 7.5 8.5 9.5 10.5 11.5 12.5 13.5 14.5 15.5
89 95 101 107 112 117 122 126 130 135 143 151 156
89 95 106 106 111 116 121 126 133 139 144 146 147

 

(表2)

身長の伸び率の目安

下記の身長伸び率以下の場合は、要注意と思われます。

(伸び率は、一年間の身長の伸びで表現。センチで表示)

年齢(歳) 3.5 4.5 5.5 6.5 7.5 8.5 9.5 10.5 11.5 12.5 13.5 14.5 15.5
6 5.4 4.9 4.6 4.6 4.3 4.1 4.1 4.6 6.9 6.9 3.4 1.4
6 5.6 5.3 4.9 4.4 4.2 4.4 5.9 6.1 2.9 1.1 0.4